Studies

研究の目的

現在のハドロン物理の主な研究対象として、励起状態も含む多種多様なハドロンの内部構造、ハドロン間の相互作用の成り立ち、強い相互作用をする媒質の相構造等が挙げられます。 これらの研究対象に決定的な知見を与えるのが当研究室の大きな目標です。 陽子や中性子などの基本的なハドロンは内部構造にはクォークがあることが知られ、 そのクォーク間に働く強い相互作用は量子色力学(Quantum Chromo Dynamics(QCD))によって記述されます。 しかし様々なハドロンに目を向けてみると、構成子クォークは裸のクォークに比較して大きな質量を持つが、 π中間子は構成子クォークに比較すると極めて小さい質量を持つ、 などの単純なモデルのみでは説明できない興味深い性質を持っています。 また、ハドロン間相互作用は起源をQCDに持つのは明らかですがカラーレスな状態である ハドロン同士がどのような相互作用を持つのかは、明らかになっていません。 私たちの研究室では、このような強い相互作用に関する謎を解くために、 ハドロンの持つ動的な質量やQCDがもたらす非自明な真空構造(QCD相)に着目した研究を進めています。

K. Fukushima and T. Hatsuda, Rep. Prog. Phys. 74 (2011) 014001
QCD相図。強い相互作用を記述するQCDは長年理論・実験の双方向から検証されてきたが、特に低エネルギー領域でQCDから直接ハドロンのダイナミクスを予測することが難しく、実験的検証が待たれている 。

研究内容

ハドロン質量とQCD媒質としての原子核

現在の目に見える質量の99%以上はハドロン(陽子と中性子)の質量です。 ハドロンの質量はQCD真空におけるカイラル対称性の自発的破れにより動的に獲得されたと考えられており、 質量とQCD真空の定量的な関係は今最も重要な実験情報となっています。当研究室ではこれまでの20倍の精度で実験的知見を与えるために、 J-PARCにおける実験を推進しています。 この実験は現在、検出器製作を開始する段階で、大学院生の間に検出器の製作から実際の実験までを体験することができます。 同様に原子核標的とγ線ビームを用いた実験をSPring-8 LEPSⅡ、東北大学ELPH FORESTで進めています。 カイラル対称性の自発的破れにおいて、擬スカラー中間子は、南部ーゴールドストンボソンとなるため、その原子核中での性質の測定は本質的に重要です。 特にη中間子は実験的情報も少なくLEPSⅡ,FOREST実験で決定的な知見が得られることが期待されています。 この実験はこれから検出器の較正作業を行い、データ収集を開始する段階にあり、来年度はまさに実験が佳境となっています。

高密度QGPの探索

ドイツFacility for Antiproton and Ion Research(FAIR)研究所におけるCompressed Baryonic Matter (CBM)実験に参加しています。 この実験では、地球上で最高密度となるクォーク物質を生成し、その性質を調べることを目的としています。 当研究室では、シリコンストリップ検出器の開発に参画し、高密度媒質におけるカイラル対称性の回復現象をベクター中間子を通じて測定することを目指しています。 これから修士で入学される方は、ドイツでの検出器開発やデータ解析に取り組むことが出来ます。

ハドロン内部構造の解明

ハドロンの内部にはクォークが存在することが知られていますが、バリオン内部の相互作用には未解明の問題もあります。 長年その存在が示唆されつつ決定的な証拠がなかったバリオン内のクォークークォーク相関の有無を決定づける実験を計画しています。 これは数年後の実験開始を目指して、検出器開発を進めています。今参加すると検出器開発の醍醐味を味わうことができます。 さらにKEKではSuper KEK-Bが稼働しており、当研究室ではBelle実験に原子核コンソーシアムを通じて参加しています。 Belle実験ではクォークモデルでは容易に理解できない中間子がたくさん発見されました。 今後Super KEK-BとBelleⅡでは更に多くの発見が期待されています。またBelle実験の解析に参加することも可能です。